青の街として有名なサマルカンド。
青のタイルと煌びやかな金で覆われた美しい建築物の数々は、多くの旅行者の心を惹きつけてやみません。
一方で、アミール・ティムールの時代よりもさらに昔、ウズベキスタンにイスラム教が入ってくる前後の時代の、アヤズカラのような「カラ」と呼ばれる城塞跡を巡るには、ホラズム地方が主となるでしょう。
ですが実は、サマルカンドで見ることができる「カラ」もあるのです。
サマルカンドは、アフラシヨブの丘など、ソグド人の痕跡が残る場所も多い街。
今回紹介するカフィル・カラ遺跡もその一つ。
そしてこの遺跡、つい先日、中央アジアの他の遺跡とともに世界遺産に認定されました。
現在も発掘調査が行われ、日本からも、2013年から毎年、調査隊が発掘調査に来ています。
今回はその日本調査隊の先生方に遺跡を案内していただきました。一緒に古代のサマルカンドを散策していきましょう。
サマルカンドの畑に広がる世界遺産「異教徒の要塞」カフィル・カラ
サマルカンド旧市街から南へ約12km向かうと、広い畑の中に「Kofir Qala(カフィル・カラ)」の案内板が。
カフィル・カラはアラビア語で「異教徒の城塞」。
いつごろからこの名で呼ばれるようになったかは明らかにされていませんが、イスラム教の布教にやってきたアラブ人にとっての「異教徒」、ソグド人が住んでいた地域だったからです。
アラブ人の侵攻により、ソグド人によって築かれたカフィル・カラは8世紀初めに焼失したと考えられています。
現在の城塞跡は16~18ヘクタールもの広さをもち、シタデル(という天守閣のようなもの)、城壁内の居住区シャフリスタン、そして城壁外の居住区ラバトから構成されています。
カフィル・カラ遺跡の中核 女神像の板絵も発見された王の間を散策
シタデルは一つの大きな建造物からなり、その北側と南側をそれぞれ3つの監視塔で守られています。
高さ30mほどの建物への入り口は一つしかなく、当時は南側の真ん中の塔から橋がかけられており、そこから出入りしていたとのこと。
この建造物での大きな発見は、部屋の一つから見つかった木彫りの板絵。
現在その板絵はサマルカンドの歴史博物館で保管されているため、模写図を見せていただきました。
絵の中でもっとも目立つのは、ライオンに腰掛ける一人の女神。
ソグド人の間でも崇拝されていた古代イラン東部の神様で、名前をナナというそうです。どことなく親しみのある可愛らしい名前に思わずほっこり。
板絵が見つかった部屋は、王の部屋だったと考えられています。
王の部屋から2つ隣には、少し床の低い部屋が。
ここには大がめや壺がいくつも置かれた跡や、動物の骨と炭化した穀物が残っていたことから、食糧庫だったとされています。
炭として残った食物は、クルミ、アワ、豆、ニンニクなど種類もさまざま。
骨は羊がもっとも多いですが、牛や鶏も食べられていたよう。
大がめに残った痕跡からは、そこに入っていたものが水かお酒か、それとも油なのかまで分かるそう。
壁面の形や、上層部分を支えたと考えられる柱穴から、食糧庫は2層構造になっていたことも明らかになっています。
一つひとつはわずかな痕跡ですが、そこからこれだけ多くのことが分かりつつあるということに、ただただ驚くばかりです。
レンガにシルクロード交易の跡も残すカフィル・カラ遺跡
シタデルの北側に位置するシャフリスタンの一角で、昨年2022年に発掘された10m四方の部屋は、王や貴族が宴会などを行うレセプションホールだと考えられています。
保護のため設置された覆いの下をくだると、日干しレンガでできた高さ4~5mの壁に囲われた空間が。
調査隊の人たちは、このレンガ一つひとつの大きさもすべて測ったとのこと。
考えただけで気の遠くなる作業ですが、この長さを測ったことで、レンガの短辺の長さがちょうど唐時代の1尺の長さと一致することが分かったのだそう。
レンガの寸法から中国との交易関係も見えてくるというのは想像もしていなくてびっくりです。
発掘調査も終盤にさしかかっているとのことでしたが、ちょうど今はレセプションホールの前室を発掘調査中とのことで、発掘の様子も見せていただきました。
スコップで淡々と遺跡から土を掻き出していく作業員。
素人目には土からできたレンガと周りの土の見分けもつきませんが、作業員は経験則で分かるのだそう。
それだけ何年も調査を続けてきたことがわかる、職人のような仕事っぷりでした。
世界遺産になったばかりの遺跡カフィル・カラ。
まだ観光地化されておらず、発掘から手をほぼ加えられていない状態で見ることができます。
調査が進んでいる真っただ中で、これから明らかになる部分も多いでしょう。
サマルカンド旧市街からすぐ行けて、広大な土地でゆったりと、イスラム期以前の歴史にどっぷり浸れるスポットとして絶好の場所です。
自分では気が付かないような些細な点が何かの痕跡だとわかる、その発見を楽しめる場所ですので、ぜひ、ガイドの解説付きでの散策をおすすめします。